香港へは返還前に行った。
(豆知識:香港は1997年にイギリスから中国へ返還された。)
香港が「合うか合わないか」は、街の匂いが「気になるか気にならないか」で決まる。独特の香りを放つ空気が気になるようでは香港を満喫できないのである。その点を取り上げて言うと、私と香港は馴染んでいたであろう。しかし馴染んでいたのはそれだけではない。全てだ。全てが馴染んでいたのである。
私の性格を知っている家族は、例え家族旅行であっても「自由行動時間」を私の為に設けてくれる。その時間を使えばどんな旅行でも単独行動ができるのだ。今回も「ビクトリアピークへ行こう」だとか「マカオへ行こう」だとかいう提案を実行しつつも、1人でウロチョロする状況も残してくれていた。
早速私はドラッグストアに向かった。目的は特にない。ただ、ドラッグストアやスーパーを見る事が好きなだけである。
商品がキレイに陳列された店内をグルグル回る。珍しい物はないか隅々まで探し歩く。そんな様子を見て1人の店員が近づいてくる。
「%※◇¥#?◎☆♪8@*&$・・・???」
これでもかっ!これでもかっ!・・・その店員は異国語を喋りまくった。たぶん中国の言葉の1つなのだろう。あまりの流暢さに聞き惚れはしたが私にはどうする事もできない。会話とは「言葉のキャッチボール」である。相手が無反応ならサッサと終わらすべきなのだ。一生懸命話しかける店員を乾いた目で見ながら「早く終わらないかな〜。」などと失礼な事をひたすら考えていた。
しかし店員は私が理解している物だと勝手に解釈していた。残された単独行動時間をめいっぱい使って会話をする勢いである。「コイツは敵だっ!」そう判断した私は、たまらず無い知恵を振り絞ってこう言った。「I don't understand your language.」
「・・・・・Japanese?!!」
店員は腹が立つほど驚いてみせたが、Japanese、そう、私は日本人だ。「どうだ、参ったか」、ようやく話すのをやめた店員を前に私は勝ち誇ってみせた。店員はスッといなくなり、その後も私の前に登場する事はなかった。「日本語しか話せない日本人」、全く万歳な存在である。
香港滞在中、ホテル付近にあった暗い商店街を好んで利用した。特に気に入っていたのが、変わったアクセサリーが売っているお店と古ぼけたおもちゃが売っているお店だ。その日も友達のお土産を選びにおもちゃを1つ1つ眺めていた。不気味な柄のライターを手に取り「これにしようかな」などと考えていたら、店のおじさんが話しかけてきた。
「%※◇¥#?◎☆♪8@*&$・・・???」
2度目に遭遇した辛い状況に私はうろたえた。しかし今回は購入したい商品がある。ここで引くわけにはいかないのだ。私はたどたどしい英語で、自分が日本から来た事、友達へのプレゼントを選んでいる事を伝えた。おじさんはそれを聞き、目を輝かせた。
「だったら値引きするよ。」
日本人は値札より高い値段で売りつけられると思っていた。突然のディスカウントに戸惑いつつも素直に応じる事にした。「金持ち日本」、私にそのオーラはない。
日本人と中国人を見た目で判断するのは難しい(多少、中国人の方が態度が大きい気もするが)。完全な観光地で同様の日本人観光客に「sorry!」などと言われる事は「当然の事」として受け止めなくてはならないのだ。イチイチ「“すみません”でも通じますよ。」と断りを入れていたら喉を壊してしまうだろう。
それは日本でも同じである。そこにいれば「日本人」だと判断され、日本語で話すものだと思いこまれる。
だから私くらいではないだろうか。自宅付近を散歩していて、「チャイニーズ?」などと聞かれたりするのは。
「あ、いえ。日本人です。」
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