特攻隊長

私は1本の煙草をくわえ、当時を振り返った。
「ワルだった。」、そう口に出すと急に安っぽくなる気がする。死闘の日々が、もがき苦しんだ日々が、作り事のように思えてくる。いや、むしろ作り事のように思いたいだけなのかもしれない。


旗揚げは真冬だった。
切れるように痛い風だけが私達を迎え入れてくれる。集合場所の堤防で、更に容赦ない風の歓迎を受け、私達は決意と覚悟の旗揚げをしたのだ。


私達(約2名)は違う学校に通っていた。お互いの学校でそれぞれの友達も作り、特に不満もないような、なんとなくの毎日を過ごしていた。しかし私達は気付いていた。どこの学校も結局一緒だと。教師達の考えている事も、学校という制度も、私達の置かれている状況も。

全て一緒なんだと・・・。



「冬になれば耐寒マラソン」---コレ、決まり事。
「10分までにゴールできなければ補習」---コレ、鉄則。

それがもう変わる事のない現実だというのなら、持久走に慣れるしかない。今、走っておくしかない。私は誓い合った友にもう1度、誓いの声をかけた。
「マラソンズ、特攻隊長、命をかけて走りますっ!」
友もそれに続けて声をかける。
「マラソンズ、総長、しんどくない程度に走りますっ!」

マラソンズ結成の瞬間である。



私達は走った。暴走の夜は毎晩続いた。
苛立ちや不安が徐々に消えていく、そんな気がした。
それらは全て幻だったのか?



耐寒マラソン当日、私、ズル休み。
打ち上げだけは見事に参加する。



マラソンズの解散はあっけないものだった。
私はまた平穏な毎日に戻ったのだ。スピードに魅せられた頃は懐かしい想い出となり、日々の単調さだけが私の元にあった。しかし友の中では終わっていなかったのである。
ある日、友の家を訪れた私に小さな白い紙が手渡された。筆で縦書きされた手作りの名刺である。その荒々しい文字はこうつづってあった。
「間乱損'S 総長 友達の名前」


「間乱損'S 総長 友達の名前」
「マラソンズ ソウチョウ トモダチノナマエ」
私はその文字をしっかりと読んだ。何度も何度も読み上げた。「良い字である。」そう思うと、熱いものがこみ上げてきた。マラソンズ、いや、間乱損'Sは私達の心の中でいつまでも生き続けるのだと。


名刺を受け取った時は素直に言えなかった言葉を、今、ここで伝えたいと思う。

友よ、アポストロフィーエス('S)だと「マラソンの総長」になってしまうのだよ。

(Mar/13/2002)