N.Y[1] 我が家が1番

「我が家が1番。」
旅行後によく聞かれるセリフである。しかしこれは旅行後に限った物ではない。旅行中もやっぱり「自分の部屋が1番」でないと辛いのだ。

部屋を案内された時、私は思った。「ここはいわゆる・・・」
「角部屋ですね。良かったじゃないですか。」
案内をしてくれた人に先に言われたが、そうである、角部屋なのだ。私は「良かった良かった」と自分の事のように喜ぶその人に向かって激しく言った。
「角部屋はオバケが出るんですよーっ!!私がオバケに食べられても良いんですかっ?!あぁ・・・怖いよ〜、英語で話すオバケが出たら困るよ〜(涙)。」
私はオバケが嫌いだ。本物も見た事はないが、映画なんかに登場する可愛くない方のオバケにも、手で顔を覆ってさえ見る事ができない。それくらい嫌いだ。私がわぁわぁ騒いでるのを軽く笑って、案内人はあっさり部屋を出た。「何かあったら連絡ください。」と言い残して。


落ち着いて部屋を見回してみる。細いベッド、扉のない棚、テレビ、電話、椅子、洗面台、電気スタンド、そして2つの大きな窓(風呂・トイレは共同なので部屋にはない。)。決してくつろぐタイプの部屋ではないが、私好みの小綺麗さがそこにはある。窓の外には57th St.が見えた。


我が家(ホテルの部屋)は1番だった。灯りは電気スタンド1つだけだが、その柔らかい光に「帰ってきたんだ」と感じさせた。私は棚に並べた非常食のカロリーメイト(日本より8箱持参)を取り出し、椅子をテーブルにトランクを椅子にして夜を過ごす。音がないと怖いので、当然テレビは流しっぱなしだ。アニメを見たりファミリー向けの番組を見たり、オバケを追い出す為だけに私は延々とテレビを付ける。
それがある日、消えた。
私が消したのではない。消えたのだ。電源がプチッと消えたのだ。

「ひぇぇぇっ!!!出た〜っ!!(出てない出てない(笑)。)」

私はオバケとの戦闘を避けるべく布団にもぐった。耳を澄ませ妙な物音が聞こえないか確認をする。パトカーのサイレンの音がよく聞こえる。車の防犯サイレンもよく聞こえる。他には変わった事はない。息を潜めるのを止め、体のリラックスさせたその時、ザーっという雑音が聞こえてきた。「あぁぅ、ごめんなさい。あ、いや、あいむそーりー。」

涙目の私がそれがテレビの砂嵐の音だと知ったのは約2時間後の事である。

(Mar/26/2002)