N.Y[2] トイレと限界

思いつきでハーレムに向かった。
その「思いつき」とは「100より北にあるストリートに行ってみようっ!」である。早速地下鉄に乗り込み、116 Stで下車する事に成功する。目標は達成した。以上、今回の任務を終了する(笑)。

116th St.からBroadwayをテクテク北上し、にぎやかな125th St.を遊び場所に決める。せっかく来たのだから散策しなくては意味がない。私は面白そうな場所を発見した事に喜び、一息入れるべく煙草を取り出した。喫煙者として今から始まるであろう楽しい出来事の前の一服は、何よりもおいしい1本だと感じる。少し風は強いが、その冷たさがまた煙草の味わいとよく合うだろう。私は今日最高の1本だと確信し、ライターの火を点けた。・・・ライターの火を・・・ライターの・・・ライター・・・。
「火が点かねぇ〜っ!!」
激しい風の邪魔を受け、私のイライラはピークに達していた。ふと顔を上げると、前から歩いてくる黒人男性と異様に目が合う。頭の中で「ハーレム=麻薬、犯罪」の図式が浮かぶ。それでもライターを点けようとする手を止められない。男性はあからさまに私を見ながら私の方へと歩いてくる。・・・煙草の火はまだ点かない。
不意にその男性は「Hey!」と声をかけ、自分の吸っているタバコを差し出した。「これで火を点けろ」、どうやらそういう事らしい。私は大喜びで煙草を受け取り、本当に最高の1本を味わう事になった。お預け状態を喰らった後はおいしさが倍増するのである。

素晴らしい一時を過ごし、ようやく散策を開始する。しかしスーパーやら99centショップやらを充分に堪能しつつ、思うのはトイレの事ばかりだ。そうである。はっきりと言おう。私はトイレに行きたいのだ。
周りを見渡す。目に入ったマクドナルドの看板を目指し駆け込みコーヒーを注文する。席に着きながらトイレの位置を確認し、そのドアにくっついている「入るな」の文字も確認する(涙)。気合いでコーヒーを飲み干し、ホテルに戻る決意をする。早歩きで駅に向かうと丁度良く電車が入ってくるようである。
「間に合うっ!」
私は悟った。絶妙なタイミングの駆け込み乗車に成功してから気付く。電車の向きが違う事に(しかも急行)。私は普段、Downtown行きの電車に乗って遊びに行き、Uptown行きの電車に乗ってホテルに戻る。今日は「100以上大作戦」の為、その逆をしなければならなかったのだ。

せっぱつまった人間は時に状況の把握に失敗する事がある。小さい頃「しっかり者」と誉められた私が、こんな単純ミスをおかしてしまう事からでもそれが証明できる。

自己嫌悪に陥りつつも次に止まった駅で降りる。反対側のホームに行くには階段の上り下りが必要だが、うまい具合に両側の扉が開いた電車が通路となってくれた。今度は間違いなくホテル向きの電車に乗れる。安堵しすぎて乗り過ごさないよう細心の注意を払って電車に揺られる。

駅に着くと競歩状態で進んでいく。「あの信号を超えてあっちの信号も超えてそのまた向こうの信号を・・・」頭の中で信号のノルマを達成させながら私は進むのだ。しかし肝心の信号はその機能を果たしていない。妙な人だかりを不審に思いつつ、私は信号の前まで足を運んだ。

おぃおぃ、パレードしてるよ〜(涙)。

脳天気な光景に私は涙を流した。

(Mar/26/2002)